001122 性差。


男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり。

紀 貫之 『土佐日記』

 昨日の日記は、前フリです。そうします。そうさせてください。

「もしも性を異にして生まれてきたなら」

 こういう想像、誰しもがしたことがあるだろうと思います。僕は男ですから、「もしも女に生まれてきたなら」と、ときどき想像を働かせてみせます。僕の場合女性に生まれてきていたほうが自分の特性をより生かせたんじゃないか、と思ったりもします。なんちゅうか、男が求めるいわゆる「いい奥さん」になれる自信は、あります、はい。だけども、「女に生まれてたらよかったな」とまでは思わないのです。男がどう、女がどうという問題ではなく、自分に与えられた性を楽しまなきゃ損だね、と思うからね。いちゃもんつけても始まらない。

 しかしながら女性が、「男に生まれてきたらよかったよ」と切に言っているのを耳にすることは、その逆に比べて多いのです。近いところで言うと就職活動をしていた友達とか、あるいはすでに会社で働いている友達とかから。これはやはり男女の社会的地位の現実、という問題があるのでしょう。多くの社会は男性上位にできあがってますから。ん?おおおっと、ここで通り一遍なフェミニズムを語るのはやめましょう。大上段から説くことは苦手です。

「君は女性崇拝論者(フェミニスト)なのか?」
「勿論僕は女権拡張論者(フェミニスト)ですよ」

京極 夏彦 『絡新婦の理』


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 さて、転換。もっとやわらかいところから攻めましょう。異性に対する憧れ、というのがありますよね。身体や、しぐさや、言葉や、表情。もっと漠然としたところで雰囲気や感覚。これらのうち、自分の属する性が持ち得ない部分に対し、注目します。だけど不可解だから、興味を持ちます。だから異性に、魅かれます。

 男である僕は女性の感性、表現に、憧れます。自分の思いもよらない方面から物事を見、考え、発する。できないから、挑戦してみたい、と思いました。


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 ここで昨日僕が書いた詩を分析してみます。自分で書いたんだから簡単に分析できます。僕はただ単に、「男女共有できる感覚」を書いたつもりです。これを「男の言葉」で書くこともできました。だけど、最近北村薫を読み返していることも影響してか、「女の言葉」で書いてみたいな、と思ったんです。別に「女の感覚」を書いたつもりはなく(そもそも男である僕には困難ですから)、「男女共有できる感覚」を「女の言葉」で書いたに過ぎません。北村薫のように「女の感覚」を描くには至りません。

 そしてこの文章を表に出して、自分の性を偽る、隠すということができるかな?という遊び心が生まれました。まあ読まれた人は実際の僕自身を知ってる人ばかりですから、鳥肌もんだったかと思われますが(それも狙ってみてたりして)

あの頃の毎朝の、枕にした頬ずりくらい気持ちのいいものはなかった。髪の毛が額や耳をすべり、なじんだ枕は私の顔の形をはっきりと覚えていてくれた。

北村 薫 「織部の霊」(『空飛ぶ馬』)


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 こんな風に、「性で遊ぶ」こともできるんですね。特にネット上では。見せかけの匿名性よりも「匿性性(造語)」の方が実は保証されている世界ですから。ネットの他にない特性のひとつとして、性を利用するも、あるいは、性を隠すも、この選択権が本人に与えられていることが挙げられると思います。自分の特質で、勝負できるんです。自分の特質を、見てもらえるんです。性というフィルタを除外して。チャットで話した相手が、男性だと思ったら女性だった(あるいはその逆)、ということがあっても、「ああ、そうなんだ」これで済むわけです。話している相手が男性であるか女性であるかは、とりあえず関係ありません(ところがどっこい往々にして関係があったりするのが現実ですが触れません。ふっ)。顔も声も筆跡も表に出ない空間。だからこそ、遊べます。

 最近3回の日記で、詩のようなものを書きましたが、それぞれ「中性」「やや女性」「女性」の言葉を使ってみたつもりです。成果のほどは・・・ですが。心理学で言うところのジェンダー(文化的社会的性差)には8通りあるということです。セックス(生物学的性差)の2通りだけに縛られることもないよね、と思うのです。

 さらには生物学的にも(つまり染色体の分類上)、性はけっして2通りだけではないのですし。

「人間は誰しも男性性と女性性の両方を持ち合わせているのです。これは均衡(バランス)の問題で、そのどちらの度合いが強いか、どちらが顕在化しているのか、そこで個人差が出るに過ぎない。女性性の強い男性が劣っている訳もないし、男だから男らしくて当然と云う決まりもない。それは、ある特定された場所と時間――文化の中でのみ意味を持つだけです」

京極 夏彦 『絡新婦の理』


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