一通のメールが届いた。

件名：ネットホスト大募集 　突然のメールで失礼します。 　この度、当サイトでは、ネットホストをして頂ける方を 　全国的に募集致しております。 　是非あなたの自由な時間にサイドビジネスとしてご利用下さい。 　また、このメールを女性の方が受け取られた場合、6月1日より 　ネットホストをオープン致しますので、是非ご利用下さい。 　只今下記のサイトでホストをして頂ける方を募集しております。 　http://xxx.xx.xx/xxxx.html 　注意:募集人数に限りがございますので、お早めに！

　（爆笑）

　どのツラ下げておれがホストを。

　申し訳ないがホスト顔の対極である。なんだこのオファーは。おれを笑かそうと思ってんのか。実際笑ったけど。

　十分笑わせてもらったのち、このメールをごみ箱に入れる寸前、おれの手は止まった。いや待て、ちょっとだけ考えてみようぜ。これはひょっとしたら転機なのかもしれない。ネットホスト界への道。それを考えなしに閉ざしてしまうのは早計ってもんだ。とりあえず問題が山積しているからそれぞれを検証してから結論を出そう。

　顔。

　だから対極の顔なんだってばさ。全面的に薄いんだってば。濃い顔のお歴々と並ぶと、照り焼きチキンと葛餅くらいの落差があるってば。そうさおれは葛餅。

　だが、考えてみる。果たして照り焼きチキンばかりでこの企画は成功するのか？

　SMAPの草ナギ（漢字、変換されません）剛。

　TOKIOの城島茂。

　V6の井ノ原快彦。

　CHA-CHAの桃太郎。

　純系２枚目揃いの集団の中で３枚目的ポジションを作ることがアイドルグループを成功させる上で重要な因子なのである。これはもう常套手段である。濃い顔ばかりでは胃にもたれるから、あっさり落ち着くキャラを配して清涼剤とするって寸法だ。それに人の好みは千差万別。１００人にひとりくらいはおれの顔が好みだと言ってくれる奇特なお方がいるかもしれない。全方位の女性の好みに対応するためにはおれのような存在も要請されるのかもしれない。だからおれがホストになってもいいのかもしれない。

　目指せネットホスト界の城島（リーダー）。
　（リーダーの顔は十分濃いじゃんというツッコミ却下）

　おーけーわかった、１００歩譲って顔の問題はクリアしたことにしよう。
　（譲るのはおめえじゃねえよというツッコミも却下）

　が、さらなる問題があった。

　おれは女の子の扱いが不得手だ。女の子に弱い。圧倒的に弱い。ツボを突かれるとヘロヘロである。白旗。戦意喪失。スカウターでも測定不能（ドラゴンボール）。

　このおれがホストのごとく女心を掌握し、女心のひだをなぞり、機微をくすぐり、女性の心のオアシスとなることなぞできるものか、いやできない（反語）。

　そんな技を会得していたら自分のためだけに使う。

　しかしここでもまた、「おれのようなキャラも必要なのかもしれない」と考えてみる。女慣れしてないおれ。女の前でアガるおれ。ウブなおれ。実はここがまた、女心をくすぐるのかもしれない。女性が優位にたって男をリードしてくってパターンもありかもしれない。それを望む女性もいるのかもしれない。おれなりの手法で女性のツボを突いていけばおひねりをもらうことだって可能だ（この人、たぶん「ネットホスト」を誤解しています）。

　よしわかった。こんなおれでもネットホストとして生きていく権利はあることがわかった（別にこれで生きていくわけじゃない）。オファーを受ける覚悟もできた。

　だが、ことはそう単純ではない。

　最後の問題はおれ自身の気持ちの問題だ。そしてこれが最大の問題だ（顔じゃなくて）。

　おれは寝ることがなにより好きな人間だ。ネットホストになって人気が出たあげくテレビ出演とかに忙殺されて寝る時間がなくなることはお断りだぜ。それにおれは大学院生。大学院とホスト。そんな２足のわらじはキツイってもんだよおねえさん。「是非あなたの自由な時間に」なんて書いてくれちゃってるけどそんな自由時間なんてなかなかないもんだよ。

　そう、今のおれにはそんな暇はない。物理的に不可能だったのだ。ここに最大の障壁があった（顔じゃなくてな）。そしてこの壁は崩すことあたわず。

　だからこのオファーは泣く泣く辞退させていただくことにしよう。

　結論は出た。

　おれはメールを（日記でネタにするために文面をコピーしてから）捨てた。

　ここにRanaさんはネットホストへの道をみずから閉ざしたのであった。

　（涙）

　こんなメール手当たり次第に送ってるんだから本気にとるなとか思ったやつ一歩前へ。

　フォントの色変えたりサイズ大きくしたりしたらまんま某大手テキストサイトじゃんとか思ったやつも一歩前へ。