060719 どの2冊で応募しよう [随想]

 今年も 「夏の100冊」 シーズンがやってきました。新潮社・集英社・角川書店と3社の文庫本が、書店の平台に所狭しと並べられております。

 会社の同僚に、 「 『新潮文庫の100冊』 、何冊読んでます?」 と訊かれ、カウント。

 「35冊でした。何冊? え、32? やた! 勝った!」

 と、出版社員らしい微笑ましいタタカイに局所的勝利をおさめたのはいいのですが、じゃあ 「35冊」 というのはこの職にある人々の平均値からして多いのか少ないのか? と問われたら、感覚的には 「たぶん、少ないほう」 に思われます。総合出版社の文芸担当の編集者の人々と話していてたびたび思い知らされるのが、 「この人、めちゃめちゃ本読んでる」 ということ。読書量の少ない自分が恥ずかしくなります。

 そんな僕をして、毎夏数冊を購入させるこの 「夏の100冊」 フェアは、読者の掘り起こしという意味で、一定の役割を果たしているんだろうなあ、と思います。 「本を読む人」 はほっといても読むと言える部分があるけれど、 「読まない人」 は、ほっといたら読まない。出版業界が全体として生き残りを図るんだったら、良書の発行を心がけていくことは前提として、 「読まない人」 に対してどう働きかけていくか、これが大きな課題となります。

僕は普段ほとんど本を読まないんだけど、だからこそ、本を読まない人の気持ちがよくわかる。(笑) 結局広告がどうのこうのというのを考えるよりも先に、本をいっぱい読んでいる人たちは、なんでああやって本棚に本を並べてとって置いてるんだろうとか、自己満足があるわけ? とか、そういうことを思った。で、そのへんをそそるようなことをやったらどうなんだろうというふうに思ったんです。

大貫卓也 『広告批評』 NO.285 2004 SEP

 新潮文庫の 『 Yonda? 』 キャンペーンを仕掛けたアートディレクター・大貫卓也氏は、 「僕は普段ほとんど本を読まない」 と話しています。そういう氏だからこそ 「本をいっぱい読んでいる人たちは、なんでああやって本棚に本を並べてとって置いてるんだろう」 という疑問を抱き、この疑問を出発点に、本を買わせるための戦略を練りました。

 従前からの 『新潮文庫の100冊』 フェアに、キャラクターとしての 『 Yonda? 』 がドッキングしたのは、1997年。さらに 「2冊読んだら必ず Yonda? グッズがもらえる」 キャンペーンが始まったのは、1998年でした。この年、フェアの売り上げは前年比115%を達成したといいます。 「景品をエサに、本を買わせちゃった」 わけです。新潮社宣伝部担当者を前にして 「僕、本読まないですよ」 と言い放ち、冷や汗をかかせた大貫卓也氏が成したこの仕事は、本を愛して愛してやまない人からはなかなか生まれ得ないもののように思われます。

 毎日本屋をのぞくことが当たり前になっている人が、1年間一度も本屋を訪れることがない人の立場に立って 「本というもの」 について考えてみることは、容易ではありません。たくさん本を読む人が抱く 「なんで読まないんだろう?」 という疑問と、読まない人が抱く 「なんで読むんだろう?」 という疑問。出版社員として意識すべきは両方なのですが、出版業界が低迷したまま膠着しているとすればその状況を打破する方策を生む可能性があるのは、えてして後者ではないかと僕は思っています。

 だからといって僕自身の読書量が少ないことの弁明にはなりませんけど。

参考資料
『広告批評』 NO.285 2004 SEP マドラ出版

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