070130 アンビバレンツな欲求 [随想]

 「食べたい」 という欲求と 「痩せたい」 という欲求は、通常アンビバレンツ (二律背反) である。同時には満たされない。 「食べたい、けれども痩せたい」 「痩せたい、けれども食べたい」 と多くの人々が希 (こいねが) い、多くの人々がどちらか一方を諦めた。

 この2つの欲求は、尽きることなく続いていく。だからああいう番組も騒動も、この先いつか再び現れる。それはまあいいとして。

 納豆が全国のスーパーから姿を消していた時期に相当する1月12日、ハンバーガーチェーンのマクドナルドは、新商品 「メガマック」 を発売した。肉が4枚、バンズが3枚。ビッグマックを凌駕するボリュームで、754キロカロリーであるという。

 これが、売れた。発売当初4日間で、332万個も。需要が予定の2倍に達して供給が追いつかず、現在は数量限定販売となっている。

 学生時代、ある時は65円ハンバーガーを10個食べ、またある時は120円フィレオフィッシュを8個食べたことのある僕も、ここで立ち上がらないわけにはいかないので (義務感) 、発売3日目にすでに食べている。ただ、今日は別にそのリポートを書きたいわけではない。

 僕が関心を寄せるのは、メガマック発売の1月12日から番組捏造発覚の20日までの都合9日間で、 「 (番組の影響で) 納豆を1日2パック食べ」 、なおかつ 「メガマックも食べた」 人は、いったいどれだけいるのだろう? ということである。

 「番組を見てスーパーに走る人々」 と 「マクドナルドでメガマックを食べる人々」 、双方の視聴者層や客層をイメージしてみたとき、おそらくそれほど重複はしないと思われる。 「健康番組」 の熱心な視聴者がマクドナルドに通いつめているとは思えない。だから、数としてはそれほど多くないかもしれない。

 しかし、無論ゼロではないだろう。とすれば、その 「納豆1日2食」 と 「メガマック完食」 の両立を成し遂げた人々に、僕はアンビバレンツの象徴を見る。食べて、かつ痩せられるという希望があったから、納豆を2パック購入した (もちろん、 「健康のため」 という一要因もあるけれども) 。本当に痩せたければ、たぶんメガマックは食べないほうがよいのに、食べてしまった。 「食べたい、けれども痩せたい」 「痩せたい、けれども食べたい」 ――アンビバレンツな欲求のせめぎ合いの帰結としての行動がここにあるし、人間の弱さ甘さかわいさも、ここにある。

 かく言う僕は、日ごろ納豆を常備し好んで食べているものの、該当期間中は品切れで買えなかったクチである。購入できていたら、おそらく一度くらいは 「1日2食」 を実行していたと思う。アンビバレンツの体現を実践できなかったのは残念だ。

参考資料
『AERA』 朝日新聞社 '07.2.5 Vol.20 No.6 p.66-67 「メガマック メタボでも大ヒットさ」

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