070425 君は氷河期を見たか [随想]

 スガシカオは 「転職って、広告が言うほどカンタンじゃない。」 と語っていますが ( 「マイナビ転職」 CM) 、僕の半年前の転職活動は幸いにして一発目の面接で決まってしまったので、 「わ、決まっちゃった。心の準備がまだっ」 と、狼狽するほどあっけないものでありました。

 こんなふうに転職活動がスムースに運んだのは僕だけの話ではなく、あっさりと希望の転職を果たした同世代の友人知人の話を、最近よく聞きます。新卒時にあれだけ苦労していた彼らの姿がウソのよう。

 そんな同世代の人々が集まったときに決まって口の端にのぼる言葉が、 「オレたちのころって、 『氷河期』 の底だったよな」 。

 あるいは年配の人々と杯を交わしているときによく言われるのが、 「キミたちのころは 『氷河期』 の底だったからなあ。苦労してきたんだよなあ」 。

 僕自身は新卒採用に応募した経験がないので、本当の意味での就職氷河期を肌身で感じてはいないのですが、話を合わせるために一応うなずいておきます。 「そうそう、氷河期氷河期。しかも底。マイっちゃいましたよもう」

 「氷河期だった」 と回顧されるということは、今は 「氷河期ではない」 ということです。事実、2008年3月卒業予定の大学生・大学院生に対する民間企業の求人意向調査によれば 「大卒求人、バブル期超す93万人」 「求人倍率2.14倍」 とされ (リクルート ワークス研究所) 、氷河期を知る身からすれば信じられない数字が並んでいます。

 では、氷河期のころってどんな状況だったっけ? と気になったので、調べてみました。僕がまっとうに大学に進学し、まっとうに大学を卒業していれば該当したはずの 「2000年3月卒」 の数字を中心に、前後数年間 (いずれもリクルート ワークス研究所、数字は 「求人総数」 「求人倍率」 の順) 。

 1998年3月卒=675,200人、1.68倍
 1999年3月卒=502,400人、1.25倍
 2000年3月卒=407,800人、0.99倍
 2001年3月卒=461,600人、1.09倍
 2002年3月卒=573,400人、1.33倍
 2008年3月卒=932,600人、2.14倍 (参考)

 たしかに底だなあ。

 ただ、前述したように僕は新卒に該当する就職活動をした経験がないので、こうして 「大卒求人倍率」 のみを挙げてもいまいちピンときません。景気動向を計る経済指標のひとつである 「有効求人倍率」 も、合わせて調べてみました (いずれも厚生労働省、数字は 「年平均有効求人倍率 (新規学卒者を除きパートタイムを含む) 」 ) 。

 1997年=0.72倍
 1998年=0.53倍
 1999年=0.48倍
 2000年=0.59倍
 2001年=0.59倍
 2006年=1.06倍 (参考)

 やっぱり底だなあ。

 なるほど当時の数字と比較すれば現在は 「売り手市場」 ですし、 「氷河期ではない」 。今、就職活動をしている学生、転職活動をしている社会人にしてみれば、好条件です。形としては、僕もこの機に乗じることができたということになるでしょうか。してみると就職・転職が 「うまくいった/うまくいかなかった」 なんてのは社会情勢・景気動向によって容易に左右されるものなのであって、因子を個人に求めて一喜一憂してもしょうがないんだよなあ、というのをあらためて感じます。

 加えて、一口に 「求人倍率2.14倍」 と言っても従業員規模別では 「1,000人以上=0.77倍」 「1,000人未満=4.22倍」 と大きな差があって、 「中小企業の労働力確保はむしろより困難に」 という問題が潜在しています。 「いわゆる 『団塊世代』 の大量退職への備え」 という背景もありますし、単純に肯定的に受け止めるわけにもいかないところでしょう。朝日新聞には 「16年ぶりに2倍台に回復」 という表現がみられましたが、本当にこの数字をもって 「回復」 と言っていいのか。2倍台に乗ったことは、 「いいこと」 なのか。その意味で、 「就職って、新聞が言うほどカンタンじゃない。」 。

参考資料
マイナビ転職
リクルート ワークス研究所
厚生労働省統計表データベースシステム
東京新聞 (2007年4月24日付)
朝日新聞 (2007年4月23日付)

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