070707 二十九、三十 [随想]

 「じゅうく、はたち」 に比べて、 「にじゅうきゅう、さんじゅう」 はゴロ的にも字ヅラ的にも劣る。 「20歳プラス10」 という歳月の間に夾雑 (きょうざつ) し付帯するさまざまなモノが、語句を冗長にしリズムを狂わせているように思われる。

 といってそれを忌避するわけにはいかないので、多くの人々は甘んじて受け入れ、 「30になっちゃいました」 と、なぜか自虐的に語る。僕も語った。 「ようこそ」 「これから先はあっというまだよー」 「人はさ、30歳からなんだよ」 と、一回性の人生をあたかも見通しているかのように語る。たぶん僕も語るようになる。こんなふうに考える僕は、ああ、汚れっちまった。

思へば遠く来たもんだ
十二の冬のあの夕べ
港の空に鳴り響いた
汽笛の湯気は今いづこ

中原中也 「頑是ない歌」 ( 『在りし日の歌』 所収)

 30歳で亡くなった中原中也は400篇に達さんとする詩を残した。人生においては弟に先立たれ、恋人を小林秀雄に奪われ、結婚するも長男を失った。僕は何を残し、何を失ってきたのだろう? なんてなことを思うまもなく、日々は過ぎる。

 20歳のころに初めてパソコンに触れ、21歳でインターネットにハマり、いわゆる 「ホームページ」 を作りはじめた。僕の20代は、インターネットとともにあった。わー、こんなこと言い切りたくない。

一人の男が二十歳になるということ。その得体の知れぬ余裕と昂揚感は、全財産を懐にして歩いている今の状態に、とてもよく似ている。例えば人生を二つに分けるとすれば、二十歳以外の境目は考えられまい。それ以降の年齢は、分けるに値しない。そういう重要な境目を、今ぼくは越えようとしているのだ。

原田宗典 『十九、二十』

 webサイト制作は、 「文章を書くこと」 と 「編集すること」 という2つのスキルをいっぺんに鍛えられる、お買い得な趣味であった。高じて、書き、編集することは仕事にまでなってしまった。20代を通じ、毎晩アホほどwebサイトづくりに時間を費やしたり、掲示板やチャットに書き込みを重ねたりしてきたことは、無駄ではなかった (と、思いたい。思おう) 。

 くり返しになるが、20歳になった時点では、僕はまだキーボードの操作もおぼつかないヤツだったのである。ブログなんてツールもなかった。こうしてしゅぱぱぱぱっと容易に日記を書けるようになるなんて。思へば遠く来たもんだ。

 三十歳になる、というのは経験した人ならわかるだろうと思うのですが、雰囲気的に人生の一つ上の階に行くということなのですね。自分がもういつまでも若くはないのだということを、そこで否が応でも認識させられます。 (中略) そこで僕らは――少なくとも僕はそうだったということですが――それをひとつのかたちにして残しておきたいと思う。それをありありと記録できるうちに、記録しておきたいと思う。僕の場合、その気持ちが自分の中でどんどん高まっていって、それが 「小説」 というかたちになったと思うのです。

村上春樹 「安岡章太郎 『ガラスの靴』 」
( 『若い読者のための短編小説案内』 所収)

 村上春樹が 『風の歌を聴け』 を世に出したのが、30歳のとき。節目に 「狙って」 デビューした (ことになっていて、かつそれに真実味と説得力がある) あたり、いかにも作家らしい。僕はこの一年で何を残せるだろう? なんてなことは、時々思う。

 そんな節目にふさわしく、20代最後の食事 (4日夕食) は大好物の 「緑のたぬき」 、30代最初の食事 (5日朝食) は、これまた大好きな魚肉ソーセージにしてみた。泣いてないぞ。

comments

らなさん、お誕生日おめでとうございます♪
7月は母や親友の誕生日や妹の結婚記念日などなど私の周りは
記念日が多い月。明るい太陽と暑い日差し、夏休みを前にわくわくする7月。いい季節に生まれたんですねぇ。
「緑のたぬき」も美味しいし携わった創刊号は届くし・・・
よいお誕生日を迎えましたね。
素晴らしい一年でありますように!

30代は無我夢中で過ぎ去った私です。こうしてネットで
楽しめたり出会ったりも30代でした(笑)

  • by mama
  • at 070710 20:17

ありがとうございます!

たしかに、 「さあ夏だ! 休みだ!」 って、心浮き立つ季節でしたね (過去形?) 。大学時代は、ちょうど前期試験の真っ最中で、祝いどころではなかった記憶があります。社会人になってからは夏休みも圧倒的に短くなって、ウキウキ感がかなり失われてしまいました。

「緑のたぬき」 は美味しかったです。いつでも美味しいです (涙) 。mamaさんがネットに出会い楽しんだように、僕の30代にもまたいい出会いがあるといいものです。魚肉ソーセージばりに、地味ながらもいい仕事をしたいと思います。

  • by Rana
  • at 070713 00:56
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