060111 ペットボトルとシロクマ [随想]

 冬。コンビニにオレンジ色の花が咲く。

 ホット専用ペットボトル飲料のキャップは、誰が決めたかオレンジ色に統一されている。耐熱強化ペットボトルの開発と加温器の熱心な普及活動により、この5年の間で風景としてすっかり定着した。

 ホット専用ボトルの容量は、概して小さい。コールド専用ボトルに一般的な500mlに対し、300mlや275mlといった、熱が保たれているうちに飲み切れる小ぶりなサイズがスタンダードとなっている。2リットルのホット飲料なんてナンセンスだ。カバンに入れて携帯するにも、手ごろなサイズといえる。そういえば500mlペットボトル飲料を街中で飲むことが当たり前の行為となったのは、いつ頃からだったっけ。

 しかしながらこのようなボトル(容器)の小型化は、単位容量あたりの容器重量(≒消費される資源)の観点からすれば、実に不経済であるといえる。ボトル本体の表面積のみで考えてもいいし、キャップ部分に着目してもいい。2リットル飲料も300ml飲料も、キャップの数は同じくひとつだ。 「たった」 300mlの飲料を包むために、いったいどれだけの資源を消費しているんだい? と、エコロジカルなメッセージを発することは容易である。

 寒くなると小型化するペットボトルの逆をいくのが、多くの恒温動物である。寒冷な地域に生息するためには身体を大型化させたほうがよいし、温暖な地域に生息するのであれば身体は小型化させたほうがよい。これはひとえに、体温維持を最重要課題としてのことである。体内での熱生産量は体重に比例し、放熱量は体表面積に比例する。換言すれば、熱生産量は体長の3乗に、放熱量は体長の2乗に比例する。寒冷地では身体を大きくしたい(多くの熱を生産し、かつ放熱は抑えたい)し、温暖地では身体を小さくしたい(熱の生産はほどほどでよく、むしろ放熱を促したい)のが、恒温動物なのである。(ベルグマンの法則)

ベルグマンの法則…寒冷地に生息する恒温動物は,温暖地の同族の仲間よりも体が大きいという現象.

代々木ゼミナールの 「生物」 の教科書(1996年度版)

 たとえばシロクマ(ホッキョクグマ)が、この法則に忠実にのっとっている。シロクマの図体はデカい。同じクマ科のヒグマやツキノワグマ等に比べても、デカい。最大で800kgに達し、これは肉食動物として地上最大であるという。北極という過酷な土地に住むためには、高い保温効果を発揮する、このくらいの図体が必要なのだ。

 再びペットボトル。寒冷の季節にあって小型化するペットボトルは、この法則に反している。生き物ではないしみずから熱生産するわけでもないペットボトルが法則にのっとる必要はどこにもないのだけれど、一点、 「小型ゆえに保温効果は低く、放熱しやすい」 という部分は、物質として共通している。ホット専用ペットボトル飲料は、加温器により短時間で温まる反面、購入後はみるみる冷める。 「あったか~い」 そのひと時は、10分もすれば儚くなる。それでもペットボトルは量産され、コンビニにはオレンジ色の花が咲く。北極の氷は消失する。

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