061116 見慣れる風景 [随想]

 転職して半月、出社した日数は正味10日で、新しい道、新しい机、新しい同僚には、まだ慣れない。

 入社に合わせて新調した革靴もまだなじまず、靴ズレが足を刺す。痛む足で昼休みの1時間をフルに使って会社の周辺を四方八方、歩き回っている。この革靴が足になじむころ、いまは見慣れぬこの風景も、身体になじむのだろう。

 見慣れぬ風景は、多くの情報を提供する。街並みも木々も人々も、すべてが興味深く感じられる。変わらぬはずの空の色さえ、新鮮に思われる。現実的には、さしあたって同僚の顔、名前をおぼえることにも迫られる。情報過多のなかで興奮と緊張がくり返され、疲労は蓄積する。

 だけどあと数ヵ月もしたら、いつもの道、いつもの机、いつもの同僚に囲まれて、いつもの仕事に精を出すようになる。なだらかな坂を転がるようにゆっくりと、この風景はいつか自分のものになる。一度自分のものになった風景は、二度と元には戻らない。はきなじんだ革靴が新品同様に戻ることは、決してない。

 時限つきのこの期間は、だから貴重で、いまの感覚をしっかりと、身体に刻んでおきたいと思う。風景にいつか 「飽きた」 と感じたとき、この感覚を思い出して力にできるように。

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