070102 何発殴ったか? [随想]

 大晦日の新聞のラジオ・テレビ欄、TBS系列の目玉番組 「K-1 Dynamite!!」 の項に記載されていたコピーに、たまげました。

・今年はTBS独占・日本の年越しは格闘技オールスター夢対決

 番組のサブタイトル的な位置づけの、このコピー。フジ・日テレ・TBSの3局が大晦日の夜に格闘技やプロレスを放送していたピーク時との比較においては、 「TBS独占」 という表現は正しいのかもしれません。ですが、 「単に手を引くタイミングを逸しただけじゃないのか」 とか 「亀田戦を放送する目論見が外れた末の、急ごしらえのコンテンツでは」 とか、負のイメージを抱いている視聴者が少なくないと思われるなか、堂々と 「独占」 とポジティブなコピーを打ち出せるふてぶてしさ、これはすごいと思います (素直に感心しています) 。 「物は言いよう」 とは、まさにこのことでしょう。

 さて、その 「K-1 Dynamite!!」 、格闘技に明るくない僕でも勝敗くらいは気になります。とくにメインの秋山成勲と桜庭和志の一戦は、ザッピングの手を休めて観戦してしまいました。

 試合結果は、一言で表せば 「秋山完勝・桜庭惨敗」 。格闘技観戦ド素人の視点であまりにも素直な感想を述べれば、 「桜庭、痛そう」 。試合開始4分過ぎ以降、秋山が一方的にパンチを浴びせつづけた結果の、TKO (テクニカル・ノックアウト) でした。

 今日の本題は、この試合結果を伝える記事の見出しにあります。

秋山105連打で桜庭をTKO (日刊スポーツ)

秋山 パンチ105連発で桜庭をTKO (スポーツニッポン)

秋山、清原にささぐ97発パンチで桜庭撃破 (スポーツ報知)

 3紙がこぞって 「何発殴ったか?」 に着目し、その数を見出しに用いています。日刊スポーツに至っては、元日付の新聞一面も 「秋山105連打」 とし (東京版) 、いかに凄まじい打撃であったかを伝えています。

 ここで、想像してみます。 「 『何発殴ったか?』 を、カウントした人物が存在する」 ということを。

 試合中、リアルタイムでカウントすることはもちろん不可能です。試合後に、VTRを (おそらくスローモーションで) 見ながら、秋山のパンチの数を 「誰か」 が数えたわけです。ここには、 「秋山は、桜庭を何発殴ったのだろう?」 という 《疑問》 と、 「その数が、見出しになるかもしれない」 という 《仮説》 、実際にカウントした 《検証》 、そして得られた 「105発 (もしくは97発) 」という数値を 《考察》 し、 「見出しにできる」 と 《結論》 づけた、一連の思考の流れがあります。

 カウントした 「誰か」 は、ここでは記者もしくは編集者でしょう。 「なんでわざわざそんなことを」 と思われる向きもあるかと思います。しかし、 「人の心に響く/目立つ/売れる」 見出しをつけるためであれば、趣味がいいとは言えないこのような行為も厭わない。むしろ、嬉々として取り組む。この例は少々血なまぐさいですが、こうした発想と気概が生んだ見出し 「秋山105連打」 は、 「秋山完勝」 などという平凡なものよりも、遥かに 「正解」 に近づきました。

 で、冒頭のラテ欄の例とも合わせ考えてみて思うのは、報道の仕事はよほど神経が太くないと務まらないよなあ、ということです。少なくとも僕は、ボコボコに殴られる桜庭の顔をスローモーションで見つめながら冷静にパンチの数をカウントできるかどうか、自信がありません。

参考資料
毎日新聞 (2006年12月31日付紙面)
nikkansports.com
Sponichi Annex
スポーツ報知

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