070524 役所広司になった [日常]

 映画 『アルゼンチンババア』 を観ました。よしもとばななの小説を原作とし、 「家族の崩壊、そして」 を描いた小品です。

 高校生、涌井みつこ (堀北真希) とその父、悟 (役所広司) は、母/妻、良子 (手塚理美) を病気で失う。良子が病院で息を引き取ったまさにその日、悟は失踪し、みつこはひとり、残される。妻の供養も果たさぬままに、悟はどこへ消えたのか。半年後、悟が発見されたのは、草原にぽつり佇む屋敷。そこには “アルゼンチンババア” と呼ばれる奇妙な女、ユリ (鈴木京香) が住んでいた――。

 導入を要約すると、こんな感じでしょうか。200字足らずの要約を書くのに1時間かかりました。お話を短くまとめるのは苦手です。だから毎度、長い日記なんだな。それはさておき。

 劇中、堀北真希が演じるところの高校生、みつこのけなげさが、これでもかと言わんばかりに強調されます。母を失い、父が消え、それでも叔母や町の人々の前では気丈にふるまうみつこ。悲惨な印象を与えすぎず、湿っぽくもなりすぎないという点で、堀北真希はこの役にうってつけだったように思われます。似たような役どころを演じることが多いので、観る側が慣らされている、というのもあるかもしれません。

 対して、役所広司が演じるところの父、悟が醸し出す情けなさったらどうでしょう。彼の事情・心中はどうあれ、傍目には 「妻の葬儀も娘もほったらかしにして、あろうことか素性も知れぬ女性と同棲していた」 わけですから。そのうえ、みつこらの追求をのらりくらりとかわす。理屈・屁理屈を織り交ぜて言い訳する。これは父親としてどうなのか。まだ高校生のひとり娘に、あんな苦労させてからに。僕だったらもっと大切にするぞ――。

 ――観ている途中で、自覚したんです。 「ああ僕は、父としての役所広司目線で、娘としての堀北真希を見つめている」 ということを。18歳の若手女優に対して、父親目線。若手女優やアイドルを、 「お付き合いしたいか」 「お嫁さんにしたいか」 「妹だとしたら」 という指標でもって見つめていられた時代は遠く過ぎ去り、 「娘だとしたら」 という指標が、すでに確立してしまっている。このパラダイムシフトは、少なからぬ衝撃をもたらしました。僕ももう、そんな年齢になったのですね。18歳の娘がいてもおかしくない年齢に。いやおかしいよ。

 日ごろ、年齢を重ねること自体は肯定的に受け止めているのですが、なんだろう、もうちょっと山下智久目線でいたかった ( 『野ブタ。をプロデュース』 )、平岡祐太目線でいたかった ( 『TRICK劇場版2』 ) 。一足飛びに役所広司目線。そんな現実を僕につきつけた、罪な映画でした (感想はどこに行きましたか) 。

comments

Ranaさん老成していますねー。父親ですか。でもRanaさんだったらきっと素敵なお父様になれるでしょうから大丈夫!(何が)
『アルゼンチンババア』の父親の情けなさは、見ていてもう大変にイライラしました。私は多分、娘視点で見ていたんだと思います。だからよけいイライラしたのかと。でもああいう父親(母親も)って結構いるんですよね。
堀北真希は常に薄倖な役柄なような気がします。そうじゃない役も演じていたはずなんですが、印象に残らない。本作も大概薄倖でしたね。自転車でお寿司運ぶシーンとか泣けてた。

  • by くら
  • at 070528 18:11

老成…… (がーん) 。でも、 「素敵なお父様」 になれるというお墨付きをいただきました。ありがとうございます (根拠が気になります) 。

僕は最初、くらさんの評を読んでいたんですよ。で、どれだけイライラするだろう? という思いもありながら観ていたのですが、途中、「ええ娘やのう」 という目線になっていたのに気づいて、愕然としましたね。

堀北真希、次に主演する映画もド直球で薄倖のようですね。 『鉄板少女アカネ!!』 も、つまるところ 「父を探して」 でしたし、そんなんばかりな気が。というか結構チェックしてるな、自分。

  • by Rana
  • at 070529 02:56
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