070902 原宿と六本木と私 [日常]

 日曜の朝、髭を剃りました。土日が休みの場合、髭を剃らずに過ごしてしまうことが多い (おかげで、日曜の夜には 「どこの泥棒さんですか?」 というくらいの無精髭が出来上がります) 僕にしては、異例の事態です。

 それというのも、原宿と六本木に、展覧会を観に行くから。近所の映画館に行くくらいなら平気ですが、原宿・六本木となると 「無精髭だとマズいのではないか」 と思ってしまいます。 「誰もあなたの髭なんて気にしませんよ」 というのも薄々わかっちゃいるのに、「原宿」 「六本木」 という街のイメージにとらわれ、無駄にていねいに髭を剃ってしまう悲しさ。嗚呼。


 まず、ラフォーレミュージアム原宿の 『ヤン・シュヴァンクマイエル展――アリス、あるいは快楽原則』 。30代男子がひとりでラフォーレ原宿に入るってのもずいぶん勇気がいりますな。水着のポスターやおしゃれなショップには目もくれず、エレベータに乗って6階のミュージアムまで一直線さ。

 ヤン・シュヴァンクマイエル (1934~) は、妻であるエヴァ・シュヴァンクマイエロヴァー (1940~2005) とともに美術・映像作品でシュルレアリスムを体現しつづけてきた作家です。本展覧会では、平面作品・立体作品がセクションごとに混沌のままに、しかし全体としては一体感をもって、展示されていました。

 夫妻それぞれの作風がともに個性的で、技量的にも秀でていたのではないかと思いますが、それが合作となったときにいっそう魅力的になる (そのぶん、わけわかんなさも増す) のが面白い。人間の想像力 (imagination) が飛躍しうる到達点の果てしなさを示す展示の数々に、視覚と触覚がおおいに刺激されました。

 鑑賞後、ポストカードを購入するために列に並んでいたときのこと。グッズを物色していた女性が、かたわらの男性に向けて発した言葉が印象的でした。

 「よかったね、この2人、出会えて」

 素朴だけど、とてもいい感想だと思いました。まったく同感です。


 次に、森美術館の 『ル・コルビュジエ展――建築とアート、その創造の軌跡』 。六本木ヒルズ森タワー53階という高層にあり、展覧会に入場するには 「東京シティビュー」 なる展望台の料金込みのチケットを買わねばならない森美術館。せっかくだからと展望フロアにも足を踏み入れてはみたけれど、肩を寄せ合うカップルや夕闇に光る東京タワーには目もくれず、めちゃめちゃ早足でぐるり一周さ。

 ル・コルビュジエ (1887~1965) は、家具から都市に至るまで広範な領域にわたる 「設計」 活動に従事した建築家。近代建築の始祖ともされます。本展覧会では、建築、絵画、家具等、多様多彩な業績が、作品そのものに加えて映像や模型 (なかには実寸大のものも) によって多面的に紹介されていました。

 彼はそのキャリアの成熟期に、大型公共施設や都市そのものの計画など、強固な理念に裏打ちされた壮大な構想を次々と提案するのですが、周囲との衝突・摩擦や規格外のスケールゆえに、頓挫したものも少なくありませんでした。人間の創造力 (creativity) の豊かさと、それを社会のなかで機能させようとしたときの限界と、両面が示されていた展示だったと思います。

 僕が感じたことのすべては、『ル・コルビュジェを見る』 (中公新書) における越後島研一氏の以下のふたつの文章に集約されます。

 建築の独自性のひとつは、あらゆる造形芸術のなかで最大の、街並みレベルでの主張ができる点にある。

越後島研一 『ル・コルビュジェを見る』 p.12 中公新書


 だけど、

 他の芸術と違い、建築家は機会に恵まれないと、作品を生み出せない。

同 p.25

 それにしても、原宿・六本木というこの立地ですよ。上野の美術館・博物館ならば、ひとりで好き勝手にめぐっていても (そして、無精髭でも) 気にならないのですが、今日訪れたこの2箇所は、なんだろう、ものすごく肩身が狭かったです。安いジーンズとサンダルで訪れてしまって申し訳ない。これが磁場というやつか。ともあれ充実の展覧会でしたので、会期残りわずかではありますが、関心のある方、お近くの方、おすすめです。

ヤン・シュヴァンクマイエル展 (ラフォーレミュージアム原宿にて9月12日まで)
http://www.lapnet.jp/eventinfo/img/cm/lm/070825_svankmajer/

ル・コルビュジエ展 (森美術館にて9月24日まで)
http://www.mori.art.museum/contents/lc/

参考資料
越後島研一 『ル・コルビュジェを見る』 中公新書
『Casa BRUTUS』 2007年8月号 (No.89) マガジンハウス

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